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火傷を負って曹操の意識はもうろうとしていた。 典韋は鎧をボロボロにされながら、曹操をかばって活路を見い出そうと、 自分の感覚の全てを鋭利な刃物のように鋭く尖らせて、敵の気配を捜した。 典韋は曹操の体のやけどを冷やすために、曹操のマントを水につけ、 さらに、自分の主人が馬から振り落とされないよう、そのマントで自分と曹操の体をしばりつける。 炎の中に活路を求めて、典韋は馬の腹を強く蹴った。 槍と剣がはせ合う音、兵士達の悲鳴や怒声、それら一切の戦の音は、曹操の耳には届かない。 ただひたすら、赤子のような無心さで、典韋と自分を結び付ける赤い布を握りしめていた。 耳もとに、猛々しい武者の息遣いを聞きながら、赤い布を握りしめる自分の手を見つめていた。 『この手を離さなければ大丈夫…。この手を離さなければ、生き延びられる』 一歩間違えれば、死の淵にあると言っても過言ではないような敗戦の最中、曹操は不思議な安堵感につつまれていた。 |